呼吸器外科
Thoracic Surgery
2016年4月6日掲載
ごあいさつ
独立行政法人 国立病院機構帯広病院は、我が国を代表する畑作・酪農先進地帯、また北海道観光の要所である十勝地方の中心都市として発展著しい帯広市に所在しております。その沿革は、さかのぼれば昭和17年の北海道庁立結核療養所ということになります。昭和22年に国立に移管され国立療養所帯広病院となり、機構改革の結果、平成16年からは現在の名称となっております。従って、当院の呼吸器外科の歴史は結核に対する外科治療から始まったと言えます。その後、肺癌を含め外科治療を要する呼吸器疾患全般に対処することの出来る呼吸器外科の拠点病院として帯広、十勝地区において確固たる地位を築いてまいりました。これからも皆様の期待を裏切らないように新しい知識、技術を取り入れ専門性の高い高度な医療、また、心の通った人に優しい医療を提供できるよう努力していきたいと思っております。呼吸器外科とは
“呼吸器外科”とは、肺・縦隔(左右の肺にはさまれた空間)・胸壁・横隔膜に発生した腫瘍、炎症、奇形、外傷などを対象疾患とする外科です。代表的な病気は、やはり肺癌に代表される肺腫瘍、自然気胸、膿胸、縦隔腫瘍といったところでしょう。 昨今、日本でも社会の高齢化と高い喫煙率の影響で呼吸器疾患、中でも肺癌の増加は著しく(肺癌は、男性癌患者の死因の1位、女性でも2位を占め、今後さらに増加していくと予想されています)、手術の対象となる肺癌症例も増加してきています。また、手術症例は高齢化し(今や80才を超える症例も珍しくありません)何らかの基礎疾患を持つ症例の頻度は高くなってきています。そして、少し前なら手術をあきらめていたような症例でも手術の対象となり、呼吸器外科全体の手術症例数は確実に増加してきています。加えて、近年、肺癌を筆頭に呼吸器外科領域においても病気を治すことだけではなく、生活の質も重視した治療の重要性が叫ばれるようになっています。その結果、以前は画一的に行われていた治療・手術が、同じ疾患であっても個々の症例の状況・状態に合わせ、異なる治療法・術式が選択されるようになってきました。それを的確に実践するためには、豊富な知識と高度な技術が必要であり、呼吸器外科を行う医師には高い専門性が求められる時代になってきました。つまり他領域を扱う外科医が片手間に呼吸器外科手術を行うことの出来ない、あるいは行ってはいけない時代になったと言っても言い過ぎではありません。その点、ここ国立病院機構帯広病院では、呼吸器外科専門医・呼吸器外科学会指導医・胸部外科学会指導医の資格を有する八柳を中心とするグループが呼吸器外科として独立し、呼吸器外科の症例のみ担当し治療を行う体制を取っています。呼吸器外科の体制と特色
現在、呼吸器外科は2名のスタッフで外来、手術、病棟管理を行っています。この2名のスタッフで年間30〜50例の肺悪性腫瘍手術を含め、70〜100例の呼吸器外科手術を行っています。これまで八柳は着任後1000例を超える原発性肺癌症例を含む約2200例の手術を手がけてきましたが、術後30日以内の術死率は0%、それ以降の死亡も含めた在院死亡率は全手術例で0.14%、原発性肺癌手術例で0.20%となっています。この様に手術成績が安定しているだけではなく、当科は呼吸器外科学会、胸部外科学会、外科学会から認定・修練施設に指定されており、呼吸器外科として専門性の高い治療を行っていると自負しています。手術に関しては胸腔鏡安全技術認定医の資格を持つ八柳を中心に内視鏡(胸腔鏡)を用いた手術を積極的に行っているのは言うまでもなく、加えて循環器内科、循環器外科と協力し循環器疾患(狭心症、弁膜症、大動脈瘤など)を有する症例の、あるいは心臓・大血管の処置を要する呼吸器外科手術にも積極的に取り組んでいます。対象疾患と治療方針
原発性肺癌
肺癌の中でも原発性非小細胞肺癌に対しては、手術で病巣を完全に切除することが最も有効な治療方法であると考えられています。その一方で、手術はあくまで局所療法であり、遠隔転移巣を持つ全身化した肺癌には無力であり、加えて、肺癌の手術そのものが心肺機能に大きな影響を与えることも忘れてはなりません。近年、肺癌も含めた各種癌治療において、癌を治すことだけではなく、生活の質も重視した治療の重要性が叫ばれていますが、そのためには手術適応を正確に決め、個々の症例の状態にあった術式を選択することが求められます。当科でも、癌の進行状態と患者さまの全身状態の二つを慎重に評価し手術適応を決定しています。 現在、肺癌に対する手術方法は、大きく標準手術、拡大手術、縮小手術の三つに分類することが出来ます。当科では、基本的には標準手術(肺葉切除+縦隔リンパ節郭清)を行う方針を採っていますが、根治性が保たれると判断した早期の肺癌、標準手術では負担が大きすぎると判断した高齢者や心肺機能の低下した症例には肺の切除範囲を小さくする縮小手術(肺部分切除・区域切除)を行っています。手術アプローチも胸壁に3〜5カ所の穴を開けるだけで最後まで手術を完遂する完全胸腔鏡下手術を原則として行っております。その一方で、周囲臓器を合併切除する拡大手術や気管支形成・肺動脈形成術という肺の機能を温存する手術にも積極的に取り組み、他施設では手術をあきらめられていたような方でも、外科治療の恩恵が受けられるように努力しております。また、平均寿命の延長に伴い80才を超える肺癌手術症例も珍しくはなくなり、全身状態・心肺機能が許せば積極的に手術を行っており、年齢の若い方々と比べても遜色のない手術成績が得られています。転移性肺癌
肺以外の臓器に発生した癌が、主に血流に乗って肺に飛んできた(転移した)ものです。癌の転移(再発)だからといってあきらめる必要はありません。外科的に切除することで、長期生存が得られる症例があります。当科では、主に内視鏡(胸腔鏡)を用い積極的に手術を行っています。その他の肺腫瘍
肺には様々な良性腫瘍も出来ます。癌との鑑別がつかない場合や良性でも増大してきた場合には手術適応となります。当科では、可能な限り内視鏡(胸腔鏡)を用い切除するようにしています。縦隔腫瘍
縦隔腫瘍には様々な種類があり、発生する部位も異なります。当科では、可能な限り内視鏡(胸腔鏡)を用い切除するようにしています。最近では、胸腺腫の初期のものも胸腔鏡下に切除しています。ただし、胸腺腫でも一定以上病期が進んだものや、それ以外でも前縦隔に発生し再発の可能性のある腫瘍は、傷の大きさより再発しないよう完全に切除することを優先し、胸骨という骨を縦に切って手術を行っています。気胸・肺嚢胞
気胸とは、肺の一部に穴があき空気が漏れだし、その空気で肺が押しつぶされてしまう疾患です。多くは肺嚢胞と呼ばれる肺の表面に出来た風船状の病変が破れることで生じます。当科では、ほとんどの症例を内視鏡(胸腔鏡)を用い手術しており、術後3〜4日で退院していく患者さまも珍しくありません。肺嚢胞は、破れなくても大きくなると正常な肺を圧迫し肺機能を低下させてしてしまうことがあり、切除の対象となります。この場合も、可能な限り内視鏡(胸腔鏡)を用い切除するようにしています。膿胸
胸腔内に膿がたまった状態を膿胸と呼び、内科的治療で改善しない場合には外科治療が必要になります。膿胸の手術には様々な方法があり、いずれも専門的な知識と技術が求められます。当科は、結核治療の長い歴史を有し症例の蓄積も豊富であることから、膿胸の外科的治療にも積極的に取り組んでおります。その他
悪性中皮腫、胸壁腫瘍、重症筋無力症に対する外科治療、漏斗胸手術も行っております。セカンド・オピニオン
当科では、呼吸器外科疾患に対する診断や治療方針に対するセカンド・オピニオンにも対応いたしております(要電話予約)。スタッフ紹介
- 八柳英治(やつやなぎえいじ)